毎年この時期(2月または3月上旬)と言えば、真夏のブラジルではリオのカーニバルで大いなる盛り上がりを見せますね。という訳で、今回はブラジル音楽の鬼才中の鬼才でこの僕も敬愛して止まないカエターノ・ヴェローゾのMY12曲を挙げておきたいと思います(本当はMY24曲ぐらい挙げておきたいところではありますが、今回は“カエターノ入門編”として厳選された12曲のみを挙げておきたいと思いますよ)。1960年代後半、元々は映画監督か画家志望だったという音楽好きの若者カエターノ(カエターノ最大のアイドルと言えばもちろんボサノヴァの帝王ジョアン・ジルベルトですね)は同郷の同朋ジルベルト・ジルらとともにブラジル伝統音楽を継承する一方で当時世界を席巻していたビートルズ=サイケデリック・ロックの影響を音楽面と文化面両面で受けた“トロピカリズモ運動”をリードしていきました(サイケデリックこの上ないソロ・デビュー・アルバム『アレグリア・アレグリア』のオープニング曲でトロピカリズモ運動のテーマ曲的な「トロピカリア」の「バンド万歳/カルメン・ミランダ万歳」という歌詞も象徴的ですね)が、しかしながらこの芸術運動は、同時期にアメリカで発生したヒッピームーブメントと同じく、反体制的な色合いも強めたことで、当時のブラジル軍事政権は弾圧を決行、カエターノとジルは遂に68年の年末に逮捕、二ヶ月後の69年に釈放されてからも一切の表現活動は禁止され(ジルのカウントで始まって獄中での末妹への想いを歌った「イレーニ」や77年発表のカーニヴァル・ソング集『ムイトス・カルナヴァイス』にも収録されたカーニヴァル讃歌「トリオ・エレトリコを追って」が収録された『ホワイト・アルバム』のレコーディングだけは許可されましたが)、ほどなく二人はロンドンへと亡命、72年にはブラジルへと帰国することとはなりますが、ムーブメントとしてのトロピカリアも60年代の終幕とともに終焉を迎えることとなりましたね(もちろんトロピカリアの精神は次世代アーティストへと受け継がれることにはなりますけどね(ブラジル軍事政権は1985年に文民政権へ移管))。
帰国後最初のアルバム『アラサー・アズール』はカエターノ史上最大の音圧でサンバの古典をサイケデリック・ロック化した「ヂ・カーラ」や或いはアフロ・ブラジル音楽やコンクリート・ポエムなどが混沌のサウンド・コラージュを爆発させたアヴァンギャルドな実験作でした(ブラジル軍事政権への無言の抗議も行なったかのようでしたね)が、その後はうって変わって内省的な音楽性へと移行、“ブラジルのジョン・レノン”とも言えるカエターノの“トゥー・ヴァージンズ”なアルバム・ジャケットの『ジョイア』の中でもとりわけ透き通るような美しさの「ルア・ルア・ルア・ルア」、70年代ディスコ・サウンドにブラジル特有の“サウダージ”感が顔を覗かせるファンク・フュージョン「オダーラ」、牢獄の独房に繋がれていた時に見た地球の写真がカエターノにこれほどまでに神々しい歌を作らせたのかと思うと胸が熱くならずにはいられない名曲中の名曲(シタールの音色も印象的ですね)「テーハ(地球)」、78年から83年までカエターノのバック・バンドを務めたオウトラ・バンダ・ダ・テーハのフュージョン・ライクな演奏がカエターノのとろけるような歌声に優しく絡む「サン・ジョルジの月」、当時9歳だった長男モレーノ・ヴェローゾの可愛い声が耳に残る全編アカペラのイレ・アイェ讃歌「イレーに捧げるアフォシェ」、そして82年のサンバ・エンヘード(カーニヴァルのパレードのテーマ曲)でパーカッション隊もカエターノを煽り倒す「エ・オージェ(今日)」と、どの曲も必聴なカエターノの名曲たちでありますが、ここで“隠れた名曲”も挙げておくと、ニューヨーク・パンクの異才アート・リンゼイのプロデュース作で90年代の黄金期のカエターノを支えたジャキス・モレレンバウムが初めて参加した重要作であり大傑作でもある『シルクラドー』からのナンバーで生まれてきたばかりのわが子に捧げられた慈愛に満ち溢れた(ジルベルト・ジルも参加していますね)「ようこそ」も挙げておきたいと思います。本当は90年代の黄金期そして00年代の達観期から何曲か挙げないといけないところですが、既に11曲挙げてしまったので(汗)、最後はカエターノの息子(もっと言うとモレーノ)世代のアーティストと結成したオルタナ・ロック・バンド=バンダ・セーと作り上げた00年代のカエターノの快心の一作『ジー・イ・ジー』からの「ヂフェレンチメンチ(彼らとは違って)」を挙げておきたいと思います。
どうやらバンダ・セーとの活動は2010年で一区切りをつけたようですが、今年2012年8月7日で70歳(!)の大台に乗るカエターノからは今後も目が離せませんよ。
01「トロピカリア」(『アレグリア・アレグリア』収録(1968年))
02「イレーニ」(『ホワイト・アルバム』収録(1969年))
03「トリオ・エレトリコを追って」(『ムイトス・カルナヴァイス』収録(1977年))
04「ヂ・カーラ〜エウ・ケーロ・エッサ・ムリェール」(『アラサー・アズール』収録(1973年))
05「ルア・ルア・ルア・ルア」(『ジョイア』収録(1975年))
06「オダーラ」(『ビーショ』収録(1977年))
07「テーハ(地球)」(『ムイト』収録(1978年))
08「サン・ジョルジの月」(『シネマ・トランセンデンタル』収録(1979年))
09「イレーに捧げるアフォシェ」(『コーリス、ノーミス』収録(1982年))
10「エ・オージェ(今日)」(『ウンス』収録(1983年))
11「ようこそ」(『シルクラドー』収録(1991年))
12「ヂフェレンチメンチ(彼らとは違って)」(『ジー・イ・ジー』収録(2009年))
posted by 山茂登旅館 at 22:00|
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